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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)8369号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二抗弁(免責約款)について

1 抗弁一の事実は、原告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

本件契約における免責条項(生存給付金付定期保険(五一)普通保険約款第一条及び傷害特約第一条)によれば、被保険者の死亡が同人の自殺または重大な過失によるときは、被告は死亡保険金及び災害死亡保険金を支払わないとされている。そして右にいう「重大な過失」とは、通常の過失(軽過失)に比べて、注意を著しく欠くことをいうものと解せられる。

2 そこで、訴外光幸の死亡が同人の重大な過失によるものであるかどうかについて判断する。

(一) 訴外光幸が、昭和五四年七月一一日午前四時ころ急性シンナー中毒により死亡した事実は当事者間に争いがない。

(二) <証拠>によれば次の事実を認めることができ、この認定を左右しうる証拠はない。

(1) 訴外光幸は、本件事故当時、訴外山田、同森田英幸、同国分栄らと友人関係にあり、訴外山田ら三名は多数回にわたつてシンナー吸引の経験があつたほか窃盗等の非行歴を有していた。

(2) 訴外光幸は昭和五三年一一月ころシンナー遊びによつて補導され、それが違法行為であり、身体に極めて有害であることを知らされ、大いに反省するところがあり、再びしないことを誓つた。

(3) それにもかかわらず訴外光幸は、本件事故に至るまで何回かシンナーを吸引し、共引者山田洋己の母からも共引者と共に注意をうけ叱られたことがあつた。

(4) 同年七月一〇日午後六時三〇分ころ訴外光幸及び訴外山田ら三名を含む一〇名の者が、美瑛駅に集まつた後かねてより山田が窃取したシンナー入り一八リットル缶を隠してあつた草原に赴き訴外光幸らは同所でシンナーを吸引し、さらに同人らは美瑛駅裏にひき返して同日午後八時ころから午後一一時ころまでの間同所附近で再びシンナーを吸引した。

(5) その後、訴外山田は上川郡美瑛町北町一丁目の自宅に帰り、二階自室に居たところ、同人の誘いに応じて訴外光幸と訴外国分栄が訴外山田を訪れ、同人らは山田の親に発覚せぬ用心のため二階の窓から訴外山田の自室に入り、しばらくしてから訴外森英幸が同様にして山田の自室に入つた。同所にはファンタ一lビン二本にそれぞれ四分の一及び三分の二程度のシンナーが用意されており、訴外光幸らは七月一一日午前一時ころから三時ころの間、右シンナーをバスタオルにひたして「ふり」という方法によりシンナーを吸引した。

(6) 右「ふり」というのは、バスタオルにシンナーをしみこませ「ふり師」と呼ばれる役目の者がこれを布団、毛布の中でふり、一方シンナーを吸引しようとする者が布団、毛布の中に頭を突つこんで気体になつたシンナーを吸うという方法である。

(7) 今回は、訴外森田英幸が「ふり師」となつてシンナーにひたしたバスタオルをふり、他の三名が布団、毛布の中に頭を突つこんでシンナーを吸つていたがその後危険を避けるために訴外森田英幸が二、三回布団をはたいて空気を入れ換えたりしているうちに、訴外森田英幸が寝てしまつた。

(8) 午前七時三〇分ころ訴外山田の母親が異常を発見し、その時は訴外森田英幸はすぐに目を覚ましたが、訴外山田、国分は意識を喪失しており、救急車で美瑛病院に運ばれた。訴外光幸はその時点ですでに死亡していた。

(三) シンナー吸引の身体に及ぼす影響

前記各証拠を総合すれば、次の事実を認めることができ、この認定を左右しうる証拠はない。

(1) シンナーを吸引すると急性中毒の場合、酩酊状態となり、眠気を催し、疲労を感じるようになり、耳鳴り、めまい、嘔吐、頭痛、歩行困難等をきたすこと。

(2) 特に大量吸入したときは痙攣、麻痺、意識喪失が起こり、皮膚粘膜は蒼白となつて血圧が降下し、組織内、特に網膜に出血が起こることがあること。

(3) さらに重症の場合には直ちに意識を失い、痙攣、うわごとを発し、ついには呼吸麻痺で死亡するに至ることもある。

以上の事実によると、シンナー吸引行為は、人の身体に対し最悪の場合には死亡という重大な悪影響を与えるに至る極めて危険な行為であることが明らかである。

(四) シンナーの有毒性、吸引行為の危険性についての一般意識

前記各証拠によれば、次の事実を認めることができ、この認定を左右しうる証拠はない。

(1) シンナーの乱用は昭和四〇年ころから社会問題化し、特に青少年の間における流行が問題とされてきた。

(2) これに対して、警察その他の機関により、毒物及び劇物取締法の改正強化、取締の強化、広報活動の徹底等の防止対策がとられてきたが、現在に至るも衰えをみせていない。

(3) シンナーの乱用は時にそれが乱用者の死という結果を招くことがあり、新聞報導その他のマスコミで広く報じられ、世間の耳目を集めてきた。

(4) 警察、医薬関係機関によりシンナーの毒性や身体に対する作用の機序、乱用の実態等について広く調査、研究がなされた。

(5) 右実態調査の結果は、シンナー及びこれに類する危険な有機溶剤の一般市民生活への深い浸透を窺わせるものである。

以上のような事実を総合すれば、本件事故当時、一般社会人においては、シンナーの有毒性、シンナー吸引行為の危険性について十分な認識を有していたものと推定することができる。

(五) 以上に認定した事実に加えて、訴外光幸は本件事故当時、一五才の年少とはいえ義務教育年令の最高段階に達しており、社会生活に必要な是非を弁別する能力を有していたと考えられ、その前歴、警察での補導、警告等からみて、訴外光幸においては、本件事故当時シンナーが有毒でありこれを吸引すると場合によつては死亡することもありうることについて予見したか予見が可能であつたと判断することができる。

(六) 右に認定した事実により、訴外光幸の重過失の有無について判断するに、本件事故当時の状況によれば、同人においては、シンナー吸引行為の危険性、致死可能性について予見したが予見可能であつたにもかかわらず、たやすく訴外山田の誘いに応じて自らすすんで訴外山田の自宅に赴き、「ふり」というきわめて危険なシンナー吸引行為に加わつたのであつて、これは、自己の生命を喪失するという危険に対して著しく注意を欠いた態度であつたといわざるをえず、同人には、シンナー吸引による自己の死亡という結果について重大な過失があつたといわざるをえない。

(林繁)

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